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福島家庭裁判所 昭和45年(家)1006号 審判

申述人 渋谷マツ(仮名) 外二名

主文

本件各申述はこれを受理する。

理由

被相続人渋谷守は、その最後の住所である福島県二本松市○○○○△△△番地で、昭和四四年九月二八日死亡したが、同人に対し、申述人渋谷マツは妻、申述人谷崎モリエは長女、申述人私市利助は三男であつて、いずれも、上記被相続人の相続人であるところ、相続を放棄したいので、本件各申述の受理を求める。というにある。

本件記録によると、被相続人渋谷守が申述人等申述の場所と日に死亡して、相続が開始し、申述人等が上記被相続人と申述人等申述のような身分関係の相続人であつて、被相続人死亡の日に相続の開始があつたことを知つたとして、いずれも、相続放棄の申述を、昭和四五年一月五日なしたことが明白である。

そして、民法第九一五条第一項によると、相続の放棄は、相続人が自己のために相続の開始があつたことを知つた時から三か月の期間内にしなければならないものであるところ、本件相続放棄の期間の計算については、家事審判法第七条非訟事件手続法第一〇条民事訴訟法第一五六条第一項により、民法に従うことになり、同法第一四〇条により、期間の初日を算入しなく、昭和四四年九月二九日から起算しなければならず、期間の末日は同法第一四三条により、同年一二月の応当日の前日である同月二八日であるところ、本件各申述は前認定のように、同四五年一月五日なされ、期間の末日と各申述との間にある同四四年一二月二八日は日曜日で、家事審判法第七条非訟事件手続法第一〇条民事訴訟法第一五六条第二項によつて民事訴訟法同法の日曜日として本件放棄の期間に算入され、同月二九日から同月三一日までは年末の官公庁休暇日であり、同四五年一月一日は国民の祝日に関する法律による祝日として民事訴訟法第一五六条第二項の一般の休日にあたり、同月二日三日は国民一般の慣行にもとづく休日として同法の一般の休日にあたり、同月四日は日曜日で同法の日曜日であるためいずれも、同法に該当する日は休日として本件放棄の期間に算入されるから、もし、同四四年一二月二九日から同月三一日までの年末の官公庁の休暇日が同法所定の一般の休日に該当するとすれば、これは本件相続放棄期間に算入され、本件各申述は適法といえるが、そうでないとすれば期間経過後の不適法な申述といわなければならない。

そこで、年末の官公庁の休暇日が同法の一般の休日になるかどうか検討するに、官公庁において業務又は事務を休務とすることは、民事、刑事(刑事訴訟法第五五条第三項で年末、年始が休務とされているがこれに関係なく)とも、年末の休暇日と年始のそれと同様であり、しかも、期間的拘束を除外する国民一般の法的、経済的活動等を配慮し、かつ、明治六年太政官布告にもとづく年末休暇日の制定が、同布告にもとづいて存在し、その後法律及び最高裁判所判例等により、祝日又は国民一般の慣行上の休日となつて、民事訴訟法第一五六条第二項の一般の休日となつている従来の年始休暇日の制度とともに現在もなお存続していることを考慮すると、国民一般は、少くとも、官公庁に対する関係では、年末の休暇日を法令によつて休日と指定していなくとも、従来の年始の休暇日と同様に、国民一般の慣行上の休日としているというべきであり、この年末の休暇日も民事訴訟法第一五六条第二項の一般の休日にあたるとすべきである。

そして、このことは、従来の年始の休暇日のうち、一月一日が国民の祝日に関する法律により元日として同法の一般の休日となり、一月二日三日が上記判例により国民一般の慣行上の休日として同法の一般の休日となり、また、年末の休暇日に、裁判所において、郵便物等の受付を平常通り行つていたとしても、国民一般において年末年始の休暇日をその区別なく把握し、国民一般の慣行上の休日としていることに実質上の差はないとすべきである。

してみると、本件各申述は、その期間の末日が昭和四四年一二月二八日であるところ、同日から同四五年一月四日までは、いずれも、民事訴訟法第一五六条第二項の日曜日その他の一般の休日にあたつて、本件放棄の期間に算入されることになるから、結局、民事訴訟法第一五六条第二項により、民法第九一五条の期間内になされた適法のものとして受理するのが相当である。

よつて、主文の通り審判した。

(家事審判官 早坂弘)

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